自家歯牙移植
- 診断と適応判定
移植を希望する部位(受給側)と、移植に使う歯(供与側)の状態を詳細に検査し、移植が可能かどうかを診断します。 - 抜歯と抜去
抜歯が必要な歯(受給側の歯)を抜き、同時に移植に使う歯(供与側の歯)を慎重に抜去します。 - 移植
抜歯窩(歯を抜いた穴)をきれいに清掃・整形し、そこに抜去した供与側の歯を慎重に移植します。 - 固定
移植した歯を、隣の歯とワイヤーなどで一時的に固定します。 - 根管治療
移植した歯の神経は、通常は壊死するため、移植後数週間~数ヶ月で根管治療(歯の根の神経と血管を取り除き、根管を清掃・消毒・充填する治療)が必要になります。 - 経過観察と最終補綴
移植した歯が定着し、根管治療が完了したら、必要に応じて被せ物などで歯の形を整え、噛み合わせを調整します。 - Q自家歯牙移植はどんな歯でもできますか?
- Aいいえ、残念ながら全ての歯に適用できるわけではありません。移植を希望する部位(受給側)と、移植に使う歯(供与側)の両方に特定の条件があります。特に、供与側の歯が健康で、歯根の形が複雑でない親知らずや過剰歯が適していることが多いです。まずは精密検査で適応となるかを確認させていただきます。
- Q治療の成功率はどのくらいですか?
- A症例や患者さまのお口の状態、術後のケアなどによって異なりますが、一般的に適切な条件を満たしていれば、80~90%程度の高い成功率が報告されています。当院では、徹底した診断と精密な手技により、成功率の向上に努めています。
- Q治療中に痛みはありますか?
- A外科処置を伴うため、麻酔をしっかりと行います。術中は痛みを感じることはほとんどありません。術後数日間は、痛みや腫れが出ることがありますが、処方される痛み止めでコントロールできる範囲です。
- Q治療期間はどれくらいかかりますか?
- A移植手術自体は1~2時間程度で完了することが多いですが、その後、移植した歯の定着を待つ期間(数週間~数ヶ月)、根管治療、最終的な被せ物の装着まで含めると、全体で数ヶ月から半年、場合によっては1年程度かかることもあります。精密診断の際に、具体的な治療期間の目安をご説明いたします。
- Q移植した歯は、将来的にむし歯や歯周病になりますか?
- Aはい、移植した歯もご自身の天然歯ですので、むし歯や歯周病になる可能性はあります。そのため、治療後もご自身の歯と同様に、毎日の丁寧な歯磨きと、歯科医院での定期的なメンテナンス(検診、クリーニングなど)が非常に重要です。
- Q治療費用はどのくらいですか?
- A自家歯牙移植は、現在のところ保険適用外の自由診療となります。治療費用は、症例の難易度や必要な追加処置(根管治療、骨造成、被せ物など)によって異なります。初診時のカウンセリングで、お口の状態を拝見し、治療計画とともに明確な費用をご提示いたしますのでご安心ください。
- Qインプラントと自家歯牙移植、どちらが良いですか?
- Aどちらの治療法にもメリット・デメリットがあり、患者さまのお口の状態、ご希望、全身状態によって最適な選択肢は異なります。自家歯牙移植は、天然歯を活かせる点が最大のメリットですが、適応症例が限られます。インプラントは適応症例が広く、高い成功率と機能性を誇りますが、人工物であることや、骨の量が不足している場合に骨造成が必要になることがあります。当院では、それぞれの治療法の特性を詳しくご説明し、患者さまにとって最善の選択ができるようサポートいたします。

「むし歯がひどくて、抜くしかないと言われた…」
「奥歯が一本なくなってしまったけど、インプラントは少し抵抗がある…」
そのようなお悩みをお持ちの方も多いかと思います。
歯を失うことは、誰にとっても不安で、大きな決断を迫られる瞬間です。
私たち栃内歯科医院が最も大切にしているのは、「患者さまご自身の天然の歯を、できる限り長く残すこと」です。
どんなに優れた人工の歯でも、天然の歯が持つ感覚や機能、そして生命力にはかないません。
そこで当院では、「もう抜くしかない」と諦めかけていた歯の代わりに、患者さまご自身の健康な歯を別の場所に移植する「自家歯牙移植(じかちがいしょく)」という治療法を積極的にご提案しています。
自家歯牙移植はご自身の歯を使うため、インプラントのような人工物とは異なる、生体との親和性の高さが最大の魅力です。
このページでは、自家歯牙移植がどのような治療なのかを、分かりやすくご紹介いたします。
自家歯牙移植とは?:ご自身の歯を、もう一度活かす画期的な治療

自家歯牙移植とは、何らかの理由で抜歯が必要になった場所へ、ご自身の口腔内にある、比較的不要な健康な歯を外科的に移動させる治療法です。
簡単に言えば、「歯の引っ越し」です。
主に、親知らずや、噛み合わせには関与しない過剰歯(余分な歯)など、機能上重要でない歯を、むし歯や歯周病などで失ってしまった歯の場所、あるいは将来的に失う可能性のある歯の場所に移植します。
自家歯牙移植の基本的な流れ
なぜ自家歯牙移植を選ぶのか?:インプラントや入れ歯にはない「天然歯」のメリット
失われた歯を補う治療法には、主に「インプラント」「ブリッジ」「入れ歯」が挙げられます。
自家歯牙移植は、これらの治療法とは異なる、「ご自身の天然歯を活かす」という大きな特徴から、多くのメリットを持っています。
生体との親和性が非常に高い

自家歯牙移植の最大のメリットは、歯根膜(しこんまく)という、歯と骨をつなぐ特殊な組織が一緒に移植される可能性があることです。
歯根膜には、食べ物の硬さや触感を感知するセンサーの役割があり、これにより「天然の歯と同じような噛み心地」が得られます。
インプラントには歯根膜がないため、この感覚は得られません。
自家歯牙移植の場合、歯根膜を介して骨と結合するため、インプラントよりも骨とのなじみが良いとされています。
また、歯根膜があることで、骨への負担が分散され、より自然な形で機能することができます。
歯ぐきや骨が、ご自身の歯に合わせて馴染んでくれるため、より自然な歯ぐきのラインを形成しやすく、審美性にも優れています。
成長期の対応:成長期のお子さまにも適応可能

インプラントは、顎の骨の成長が止まるまで適用できません(通常18歳頃以降)。
しかし、自家歯牙移植は、成長期のお子さまの抜歯部位にも適応できる場合があります。
歯根の成長途中の歯を移植することで、移植先の顎骨の成長に合わせて歯根が完成し、より長期的な安定が期待できるケースもあります。
これにより、成長期にインプラントを待つ間のギャップを埋めることが可能です。
感染に強い可能性

自家歯牙移植された歯は、天然の歯根膜が残存している場合、インプラントに比べて歯周病菌に対する抵抗力があると考えられています。
また、万が一歯周病になった場合でも、天然歯と同様に歯周病治療を行うことができるため、トラブル時の対応の幅が広いです。
費用を抑えられる可能性
インプラント治療に比べて、費用が安価に抑えられる場合があります。
特に、親知らずなど、ご自身の健康な歯を有効活用できる場合は、経済的なメリットも大きいです。
心理的な抵抗感が少ない
人工物であるインプラントに抵抗がある方にとって、「ご自身の歯を使う」という点は、心理的なハードルが低く、安心感につながります。
これらのメリットから、自家歯牙移植は、失われた歯を補う治療の選択肢として、非常に有力な方法の一つと言えます。
自家歯牙移植の適応と条件:どんな場合でも可能なわけではない
自家歯牙移植は画期的な治療ですが、全ての患者さまに適用できるわけではありません。
成功率を高めるためには、いくつかの条件を満たす必要があります。
当院では、精密な検査と診断に基づき、患者さまがこの治療の適応となるかを慎重に判断します。
1. 移植を受ける側(受給側)の条件
抜歯窩(歯を抜いた穴)の大きさ・形状
移植する歯が収まる十分なスペースと、安定して固定できる骨の形態が必要です。
むし歯や感染が広範囲に及んでいる場合や、抜歯窩の骨の欠損が大きい場合は、事前に骨の再生治療が必要になることがあります。
炎症・感染の有無
抜歯窩に強い炎症や感染がある場合、移植の成功率が著しく低下するため、炎症が治まるまで待つか、事前に感染源の除去を徹底する必要があります。
歯周組織の健康状態
移植部位の歯ぐきや周囲の骨が健康であることが重要です。
歯周病が進行している場合は、先に歯周病治療を行う必要があります。
2. 移植に使う歯(供与側)の条件
健康な状態の歯
移植する歯自体に、むし歯や歯周病がなく、健康であることが大前提です。
特に、歯の神経(歯髄)が健康であること、歯根膜が健全であることが重要です。
抜歯窩とサイズ・形状が合うか
移植先の抜歯窩に、無理なく収まるサイズと形状の歯である必要があります。
特に歯根の形が複雑な歯は、移植が難しい場合があります。
親知らずや、歯並びを乱す過剰歯(余分な歯)が最も一般的な供与歯として選択されます。
歯根の完成度
歯根が未完成な歯(歯根の先端がまだ開いている歯)を移植する場合、移植後に歯根の成長が期待できる可能性があり、成功率が高いとされています。
これは、歯根膜の再生能力がより高いためです。
抜去のしやすさ
供与側の歯が、周囲の骨を大きく損傷することなく、慎重に抜去できる位置にあるかどうかも重要な条件です。
3. 患者さまご自身の全身状態
糖尿病や骨粗鬆症など
全身疾患をお持ちの場合、治癒能力が低下したり、術後の合併症のリスクが高まったりすることがあります。
主治医との連携の上、慎重に判断します。
喫煙の習慣
喫煙は、血流を悪化させ、治癒を妨げ、移植の成功率を著しく低下させる要因となります。
可能な限り禁煙をお願いしています。
良好な口腔衛生状態
術後の感染予防と、長期的な成功のためには、患者さまご自身の良好な口腔衛生状態が不可欠です。
当院では、これらの条件を総合的に判断し、歯科用CTを用いた三次元的な骨の構造分析や、マイクロスコープを用いた詳細な診査を行い、最も適切な治療法をご提案いたします。
栃内歯科医院の自家歯牙移植:成功率を高めるためのこだわりと技術
自家歯牙移植は、高度な外科的技術と、細やかな配慮が求められる治療です。
当院では、患者さまに安心して治療を受けていただき、成功率を最大限に高めるために、以下の点にこだわっています。
精密な診断と綿密な治療計画

歯科用CTによる三次元解析
移植する歯の歯根の形や長さ、移植先の骨の形態、骨の厚み、神経や血管の位置などを、三次元的に正確に把握します。
これにより、移植のシミュレーションを行い、手術の安全性を高めます。
マイクロスコープ(歯科用顕微鏡 ネクストビジョン)を用いた診査
肉眼では確認できない歯根膜の状態や、細かな歯の構造を拡大して確認することで、より正確な診断と、移植可能な歯の選定を行います。
熟練した歯科医師による診断
自家歯牙移植の経験豊富な歯科医師が、豊富な知識と臨床経験に基づいて、患者さま一人ひとりの口腔内の状況を総合的に判断し、最適な治療計画を立案します。
精密で正確な外科手技

マイクロスコープを駆使した手術
歯を抜去する際、特に歯根膜を損傷しないように、肉眼の最大20倍以上に拡大された視野で、非常に繊細な操作を行います。
これにより、歯根膜の残存率を高め、移植後の生着率向上に貢献します。
また、移植先の抜歯窩の形成も、マイクロスコープ下で精密に行うことで、移植する歯がぴったりと収まるように調整し、初期固定を確実にします。
低侵襲(ていしんしゅう)な抜歯・抜去
供与側の歯を抜去する際も、周囲の骨や組織への損傷を最小限に抑える「低侵襲」な方法を徹底しています。
これにより、術後の痛みや腫れを軽減し、治癒を促進します。
最適な抜歯窩の整形
移植する歯のサイズや形に合わせて、抜歯窩の骨を慎重に整形します。
必要に応じて、骨造成などの処置を併用することもあります。
強固な初期固定
移植した歯が初期段階でしっかりと固定されることは、生着の成否を分ける重要な要素です。
適切な固定方法(隣の歯とのワイヤー固定など)を用いて、移植歯が動かないように確実に固定します。
徹底した感染管理と術後ケア

高水準な滅菌体制
手術で使用する器具は、全て高水準な滅菌処理を施し、感染リスクを徹底的に排除しています。
術後の徹底した感染予防
術後には、抗生物質や鎮痛剤の処方、適切な口腔衛生指導を行い、感染の予防と痛みの管理を徹底します。
丁寧な根管治療
移植した歯の根管治療は、生着後の歯の寿命を左右する非常に重要なステップです。
当院では、ラバーダム防湿やマイクロスコープ、ニッケルチタンファイルなどを活用し、高精度な根管治療を行います。
定期的な経過観察
移植後の歯は、数ヶ月から年単位で状態を慎重に観察していく必要があります。
レントゲンやCT撮影を行い、歯の定着具合や骨の状態、歯根膜の再生状況などを定期的に確認し、問題がないかをチェックします。
痛みに最大限配慮した治療

自家歯牙移植は外科処置を伴いますが、当院では患者さまの痛みを最小限に抑えるための様々な工夫をしています。
表面麻酔と電動麻酔器、極細針の使用
麻酔注射の前に表面麻酔を塗布し、電動麻酔器でゆっくりと麻酔液を注入することで、注射時の痛みを軽減します。
また、麻酔に使用する針は、髪の毛よりも細い「極細針」を選んでいます。
静脈内鎮静法(ご希望に応じて)
手術に強い不安や緊張がある方には、点滴で鎮静剤を投与し、ウトウトと眠っているようなリラックスした状態で治療を受けていただく「静脈内鎮静法」もご提案できます。
これにより、治療中の痛みや不安を大きく軽減し、快適に治療を終えることができます。
自家歯牙移植に関するQ&A:よくあるご質問